幸福経営

BizHint「幸福経営」の先駆者ネッツトヨタ南国 「社員が幸せだから業績が上がる」

「従業員幸福」&「顧客幸福」経営を長年実践。それが儲かる会社への道

BizHint 編集部  2022年8月25日(木)掲載

メンタルヘルス不全の予防、やる気や組織のエンゲージメントを高める効果がある「ウェルビーイング(幸福)」経営が、注目されています。それに先駆けるように、1980年の創業以来「社員の幸せを第一に考える」経営を標榜してきたのが、自動車ディーラーのネッツトヨタ南国です。2002年に日本経営品質賞、2015年には第1回ホワイト企業大賞を受賞。トヨタ系ディーラーの顧客満足度調査では10年以上ナンバーワンを続けたこの会社に、多くの企業がベンチマーク視察に訪れています。「社員の幸せを第一に考える」経営をどう実践してきたのか、創業オーナーの横田英毅相談役(下写真)と伊藤俊人社長に話を聞きました。

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ネッツトヨタ南国相談役/ビスタワークス研究所顧問
横田英毅(よこた ひでき)さん
1943年生まれ。日本大学理工学部卒業後、カルフォニアシティカレッジに留学。西山グループ系列の宇治電化学工業、四国車体工業を経て、1980年トヨタビスタ高知発足と同時に副社長に就任、87年代表取締役社長。2007年代表取締役会長、10年取締役相談役。愛媛トヨタ自動車の代表取締役も務める。著書『会社の目的は利益じゃない』。また、横田さんの経営哲学を解説した著書に『「教えないから人が育つ」横田英毅のリーダー学』(天外伺朗著)がある。

ネッツトヨタ南国代表取締役社長
伊藤俊人(いとう としひと)さん
立命館大学法学部卒業。1988年トヨタビスタ高知(2004年ネッツトヨタ南国に改称)入社。営業担当(中古車営業、その後新車営業)として経歴を重ねる。2005年にネッツトヨタ南国初の営業所「あさくら太陽店」の店長に就任。2013年取締役、2016年常務取締役、2017年より代表取締役社長。


新しい販売チャネルとしての挑戦

――横田英毅相談役に伺います。ネッツトヨタ南国(創業時はトヨタビスタ高知)では「社員の幸せを第一」に考え、安定経営を40年以上続けています。長年にわたって、当たり前のことを人並みはずれた熱心さで取り組むことで、独自の組織風土を作り上げてきたとのことですが、まずは会社の歩みから、聞かせてください。

横田英毅さん(以下、横田): トヨタが5番目の販売チャネル「ビスタ店」66社を全国一斉に立ち上げることになり、1980年にトヨタビスタ高知として創業しました。愛媛、徳島、高知など四国でトヨタ系ディーラーなどを運営している西山グループが経営母体になっています。その後、オート店(98年からネッツ店)とビスタ店がチャンネル統合したことを受けて、2004年に「ネッツトヨタ南国」に改称しています。

創業時やリーマンショックの影響などで厳しいときもありましたが、長らく安定経営が続いています。本社を含めて3店舗、スタッフは約140人という規模です。

――新しい販売チャネル「ビスタ店」は、それまでのお店とはどう違っていたのでしょうか。

横田: 「ビスタ店」はいくつかの使命がありました。その一つが新しい販売方法への挑戦です。1980年当時は訪問販売が主流でしたが、お客様にディーラーを訪ねてもらう、来店型の販売スタイルを目指しました。もう一つは、ディーラーはどこも日曜は休みだったところ、日曜営業体制に踏み出す、その先陣を担うことでした。

ネッツトヨタ南国本店。週末になると多くの来場者がやってくる。

――先進的な来店型の販売スタイルは、お客様にすんなりと受け入れられたのでしょうか?

横田: 創業当時、高知市のディーラーの大半は市の中心部にありましたが、トヨタビスタ高知は郊外にポツンとある状態でした。日曜営業、来店型のディーラーとして始まりましたが、そういうロケーションということもあり、普通にオープンしていてもお客様はやってきません。

そこで、週末ごとにいろんなイベントをやるうちに、これが評判となり、女性スタッフが着物でお迎えする餅つき大会や子供向けなどの恒例イベントが次々に生まれました。すべて弊社のスタッフが手作りで運営しているのが特徴です(コロナ禍期間中はイベント開催を休止していたが、状況をみながら再開している)。

――週末の来店が一定数に増えるまでにはどういう試行錯誤があったのか、1988年の入社以来、営業に携わってきた伊藤俊人社長に伺います。

伊藤俊人さん(以下、伊藤): 私が入社したのは創業から10年も経っていない頃で、営業成績は全国のビスタ店で下位グループという状態でした。週末の来店客数を増やすにはどうしたらいいか、関係者であれこれとアイデアを出し合ったものです。スポーツ店と組んでのスキー用品販売会、紳士服の仕立て会、ミニスーパーカーショーなどもやりました。

転機になったのが、お客様にトヨタのクレジットカードを作ってもらい、カード会員なら、オイル交換の料金を半額にし、洗車も無料サービスします、というイベントです。オイル交換は定額、洗車サービスもあまり一般的ではなかった時代でしたので、かなり反響がありました。以来、来店者数の多いイベントとして定着し、現在も続いています。

それから、創業10周年のタイミングで、ショールームを改装したことも、来店数増加の底上げにつながりました。当時社長だった横田が主導して進めていました。

――横田相談役に伺います。ショールームはどういう狙いで改装されたのですか?

横田: 創業時はよくあるショールームと同じで、カウンターで商談をするスタイルでした。10周年を期に、一流ホテルのロビーのように落ち着いた空間にしました。コンセプトはお客様をお迎えする応接間です。

車はすべて外に展示することにしました。ショールームにクルマを置いているのは、よく考えてみれば、売りたい商品を買ってください、とお客様にプレッシャーをかけているようなものです。 われわれが目指していたのは、お客様に納得してクルマを選んでいただくこと。 そのために、試乗車をできるだけ多く用意するようにしました。いまでは3店舗トータルで60台ほどを揃えています。

ホテルのロビーを思わせる落ち着いてゆったりとした本店のショールーム。店内に車は1台も展示されていない。

お客様満足度調査で10年以上ナンバーワンを独走

――来店者数を増やすために、ほかには、どういう施策をされたのでしょう。

横田: 創業時から、ご来店時の対応から車検・定期点検のサービスに至るまで、お客様の満足を意識して取り組んできました。お客様がお見えになったときに、担当者以外でも対応できるように顧客管理システムを整備したのも早かったです。

メーカーのトヨタが全国ディーラーのお客様満足度調査を始めたのが1999年のことですが、調査開始以来、ネッツトヨタ南国のお客様満足度指数が、他のディーラーを圧倒的に引き離す状態が10年以上続きます。この評判が広く知れ渡ったことも、来場者数の増加につながりました。

その後、他のディーラーもお客様満足度向上に取り組むようになったので、最近はトップグループの1社という位置づけですが、それでも、相談のしやすさ、担当営業の接客マナー、点検・整備の意向、待合スペースの快適さなどの指数は、依然として高いスコアを維持しています。

敬礼してお客様をお見送りするスタッフ。接客マナーでも長年高い評価を維持。

――集客のイベントやお客様満足度への取り組みが実を結び、来場者数が増えていくわけですが、この間、販売拠点を増やして売上を伸ばすやり方をとらずに、一拠点でやってきたのは、なぜでしょうか。

横田: 高知県の事業規模ですと、創業して4、5年の間に5拠点くらいまで増やすのが業界の標準でした。たとえば、ネッツトヨタ南国本店からほど近いところに本店があるトヨタ系販売店は、高知県内に9拠点を構えています。

ネッツトヨタ南国にも創業からほどなくして、メーカーから2番目の拠点づくりの打診がありました。候補地は、人口は3万5000人規模、高知市から車で約2時間かかる中村市(現在の四万十市)です。試算をしてみると、月に数台の純増しか見込めない。さらに伸ばそうとすると、他社との値引競争になってしまい、利益が減ってしまう。これでは、ビジネスパートナーのメーカーに貢献できません。しかも、高知市に自宅があり、 家族のいる社員を転勤させるのは、経営理念の「社員を幸せにする」のと真逆のことを、強いることになります。

それらを総合的に判断して、拠点づくりよりも、本店の来場者を増やし販売を伸ばすことにしたのです。

――そう考えていた横田さんですが、創業25年目の2005年に2つ目の拠点を出店しています。

横田: 20周年の2000年頃には年間来場者数が5万人を超えました。加えて、2004年にはネッツ店(旧トヨタオート店)とビスタ店がチャネル統合したことで取扱い車種が増え、1店舗では対応しきれなくなったのです。

もう一つの理由は、私が採用を担当していたときに入社した社員(現社長の伊藤俊人)が、店長を任せても大丈夫というところまで成長してきたことです。それで、2005年に高知市内に2番目の拠点「あさくら太陽店」を出しました。

2005年に開店したネッツトヨタ南国初の支店「あさくら太陽店」のショールーム。画像提供:ネッツトヨタ南国

――ネッツトヨタ南国初の支店「あさくら太陽店」の店長に就いた2005年当時のことについて、伊藤俊人社長から伺えますか?

伊藤: ネッツトヨタ南国が初の支店を出すことになり、支店長を命じられました。先輩がたくさんいるところ、当時39歳の私が責任者で、スタッフは16名。みんな私より年下という若い集団でした。

支店スタートの前日まで営業の仕事をしていて、初日から店長として赴任したのですが、年間販売台数、サービスの売り上げといった数字がこういう計画になっているから、頑張ってやれ、と言われただけでした。

現場の仕事は担当者に任せ、マネージャーは上意下達をしない、細かなことには口をださない。それがネッツトヨタ南国の組織風土 なのですが、支店の運営もすべてお任せ、というのには、正直驚きました。週末の集客イベントの企画は一から作り上げていくことになるのですが、アイデアを出し合ってそれが具体化していく、あの楽しさ、喜びは何ものにも代えがたかったですね。

――初の支店を成功させるには、売上でも結果を出していかなければならないわけですが、マネージメントをしていくうえで、一番大切にされたことは?

伊藤: 全社員の期待を背負っていますし、新しい店を任された以上は、売上や利益の数字を達成したい。もちろんその思いは強くありましたが、 一番の目的に考えたのは、トヨタビスタ高知時代から続いている経営理念、社員の幸せです。

お客様も含めて、あさくら太陽店に関わるみんなが幸せになるようにしたい。そして、メンバー一人ひとりが成長すること。失敗を恐れずにいろんなことにチャレンジしました。

伊藤俊人社長は2005年、初の支店「あさくら太陽店」の店長に就任。

増加し続けた来場者に上限を設けた理由とは

――再び横田英毅相談役にお尋ねします。拠点展開は、その後どうされたのでしょう。

横田: 「あさくら太陽店」の2年後に、高知市の東にある香南市に「のいち青空店」を出店したことで、来場者数の増加に弾みがつきました。2010年には10万人を突破します。

その後、年間12万人くらいになったところで上限としました。週末には1日300~500人くらいの方が来店されるようになり、これ以上人数が増えると、行き届いた対応ができなくなってしまうからです。拠点数は現在も3つです。

高知県は全国に先駆けて人口減少が始まり、いまも歯止めがかかっていません。加えて、メーカーのトヨタがチャンネル別専売制を2020年に撤廃したことで、ディーラー間の競合が激しくなりました。早い時期から、拠点を増やしても消耗戦になるだけだと考えていました。

1996年以降のネッツトヨタ南国の来場者数推移。2013年に12万に達したところで、これ以上になると行き届いた対応できなくなると、来場者数をコントロールしている。

――販売拠点数は3つのまま、来場者数に上限を設けたとなると、それ以降の販売成績はどのように推移しているのでしょうか?

横田: 近年の販売成績は、トヨタ系のディーラー平均のそれよりも高い水準を維持しています。ネッツトヨタ南国の固定ファン、なかには親子二代、三代に渡ってご利用くださるお客様も増えたことなども関係しているでしょう。

メーカーのトヨタが、車両販売や顧客満足度などで優秀な実績を残したディーラーを毎年表彰しているのですが、2005年からは総合表彰の受賞が続いてきました(東日本大震災の2011年、コロナ禍の2020年以降は休止)。2008年、2014年、2019年には特別表彰も受けています。このように評価される販売成績を上げています。しかし、これを目的にやってきたのではありません。

従業員幸福度(EH)と顧客幸福(CH)を追求してきた結果

――販売成績を伸ばすことを目的にやってきたのではない、といいますと?

横田: 最近では従業員幸福度(EH=Employee Happiness)という価値観が浸透してきましたが、ネッツトヨタ南国創業以来、社員の幸せを第一に考えて、社員自らが考えて動く組織風土づくりをしてきました。 社員が幸せな会社は、生産性が120%に上がり、社員の創造力が3倍になる、とも言われています。

また、お客様満足度を進化させた顧客幸福(CH=Customer Happiness)経営ということが最近言われるようになりましたが、これを実践し高い評価を得ているのは、創業以来の「ささいなことにも手を抜かない」という精神が脈々と流れているからです。社訓にこう謳っています。 「当たり前のことを人並みはずれた熱心さで実行すること。これが凡人と非凡人の違いである」。

これらの総合的な結果が、お客様から支持されるディーラーであり続け、好調な販売成績に現れているということです。

(文:神田 久幸 撮影:仁田 慎吾)

会社の盛衰は人財で決まる。他社の数倍のお金と労力をかけるのは、そのためだ

 BizHint 編集部 2022年9月1日(木)掲載

「人財の質」が会社の盛衰を左右すると言われます。では、いい会社にするには、どういう採用をすればいいのか。ネッツトヨタ南国創業オーナーの横田英毅相談役は、自分よりもレベルの高い人財を採用すれば、その人たちが会社を発展へと導いてくれる、と考えました。ところが、自動車ディーラー業界は学生の不人気業種の一つ。それを克服するために、自ら採用を担当し、同業他社の5倍以上の費用と3倍以上の労力をかけて、「学生に選んでもらう」道筋をつくりあげたのです。横田英毅相談役と、相談役が社長時代に採用した伊藤俊人社長(写真下)、採用スタッフの方に、独自の採用戦略について話を聞きました。

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ネッツトヨタ南国相談役/ビスタワークス研究所顧問
横田英毅(よこた ひでき)さん
1943年生まれ。日本大学理工学部卒業後、カルフォニアシティカレッジに留学。西山グループ系列の宇治電化学工業、四国車体工業を経て、1980年トヨタビスタ高知発足と同時に副社長に就任、87年代表取締役社長。2007年代表取締役会長、10年取締役相談役。愛媛トヨタ自動車の代表取締役も務める。著書『会社の目的は利益じゃない』。また、横田さんの経営哲学を解説した著書に『「教えないから人が育つ」横田英毅のリーダー学』(天外伺朗著)がある。

ネッツトヨタ南国代表取締役社長
伊藤俊人(いとう としひと)さん
立命館大学法学部卒業。1988年トヨタビスタ高知(2004年ネッツトヨタ南国に改称)入社。営業担当(中古車営業、その後新車営業)として経歴を重ねる。2005年にネッツトヨタ南国初の営業所「あさくら太陽店」の店長に就任。2013年取締役、2016年常務取締役、2017年より代表取締役社長。


社長の器以上に会社は成長しない。ではどうするか?

――「企業は人なり」とも、「人財が会社の盛衰を左右する」、とも言われます。横田相談役は、社長時代自ら採用を担当し、新卒の人材採用には力を入れて取り組んできました。多くの時間と労力をかけています。まずはその経緯について聞かせてください。

横田英毅さん(以下、横田): 西山グループというオーナー家の一員だったことから、トヨタビスタ高知を創業するにあたり、トップの座(当初は副社長)に就きました。しかし、ディーラーの経験もない、経営者としてずば抜けた能力もない、そんな私がどうすれば、いい会社がつくれるのだろうか、と思いを巡らしたのが事の始まりです。そんなときに 「社長の器以上に会社は成長しない」という話を聞いて、その通りだと思いました。

では、どうすればいいか。 自分よりレベルの高い人財を採用し、その人たちが会社を発展へと導く太い柱に育っていけばいい。 そう考えて、社長である私が採用も担当することにしました。将来を見込んで採った社員が、いまでは社長や役員、関連会社の社長になるなど、会社の中核を担うようになりました。

レベルの高い人財を採りたいからと、社長時代は自ら採用を担当していた横田英毅相談役。

――自動車ディーラーは、どちらかといえば、学生には人気がない業種の一つです。学生に関心をもってもらうために、どのような採用活動をしたのでしょうか?

横田: 私が採用を担当していた間に、9年間で1億円以上使いました。同業他社の5倍以上の費用です。そして、同業他社の3倍以上の労力をかけました。たとえば、社員の仕事ぶりやプライベートを1年間かけて撮影し、その写真と会社のメッセージを謳いあげたコピーで、求人広告をつくったこともあります。

それが「社員の、社員による、社員のためのルール。」です。全員参画、多数決はしない、「売上げを伸ばせ」と言わない、重役を投票制で決めよう、“共育”制度、やる気になれない人は幸福になれない、など理想とするルールを書き連ねました。

社長として採用を担当していた1980年代に横田相談役が手がけたリクルートパンフの1例。

――ほかには、どんな工夫をしたのでしょうか?

横田: 興味のない業界からの資料は封も開けてもらえません。なんとか開けてもらおうと、和紙の封筒の裏側に女性社員の名前と住所を書いて送ったこともあります。社名は書きません。「何だろう」と期待して封を開けてもらうためです。後から分かったことですが、現社長の伊藤俊人は、この手紙作戦がきっかけで入社しました。

――伊藤俊人社長に伺います。京都の大学に進学していたところ、地元・高知の自動車ディーラーに入社にすることになった経緯は、女性のきれいな字で書かれた和紙の封筒が届いたことがきっかけだそうですが……。

伊藤俊人さん(以下、伊藤): いまになると笑い話ですが、就職の資料を取り寄せているときに、美しい文字で書かれた封筒が届いたので、興味をそそられて返信しました。すると 帰省先に女性からではなく、自動車ディーラーの社長と名乗る人から直々に電話がかかってきたのです。それが横田でした。

就職の面談のような堅苦しいものでなく、自動車のイベントを見に行きませんか、会社に遊びにきませんか、などと誘いがあるのです。あるとき、会議の様子を見ていきませんか、と言われて席に着いたら、そこではスタッフの昇進会議をやっていました。 この会社はこんなところまで学生に見せるのか、と感心したものです。

横田が語る、こんな会社にしたいという思いに共感して入社したのですが、入ってみると、理想と現実とのギャップは結構ありました。創業時にグループ傘下の高知トヨタ、トヨタカローラ高知から経験者などが集まってスタートし、各人が以前のやり方を踏襲してやっている時代でしたから。それはともかく、 「会社のすべてをみせて学生に選んでもらう姿勢」は、いまも続いています。

社長時代に横田英毅相談役が考案した「手紙作戦」が縁となって、入社に至った伊藤俊人社長。

学生の採用に1人200時間もかける理由

――横田英毅相談役に伺います。採用にかなりの時間と手間をかけているとのことですが、それは優秀な人財を選び抜くためですか?

横田: 採用にあたって、学生は先輩社員に次々に面談してもらいます。会社の隅々まで見せます。 採用に関与する人間は100人以上、社員のほとんどが関わっているといっていいでしょう。

面接は最低でも30時間くらい、なかには200時間に及んだ学生もいました。学生を慎重に選ぶために、時間をかけているのではありません。将来どんな会社にしたいのか、夢を語ることで、一緒にやりたいという学生にこの会社を選んでもらう、という考えです。会社の安定や休みの多さなどを基準に考えている学生は、求めている価値観と違う、とわかって、ほかの会社を希望していくでしょう。

――不人気業種なら、即戦力になる中途採用で目先の戦力を強化する方策もあるように思います。新卒採用を重視しているのはなぜでしょうか。

横田: キャリアが豊富で、営業能力が高い人が入ってくれば、それなりの成績を上げてくれるでしょう。しかし、 会社の経営理念「全社員が人生の勝利者になる」という価値観を共有できない人なら、組織にとってマイナス です。人柄と価値観が合っているかどうか、人間力を重視したい。すでに価値観が出来上がってしまった人のそれを、会社の組織風土に合うように変えるのは、なかなか難しいところがあります。われわれが望む人間力を備えた人にこの会社を選んでもらい、一緒に仕事をしていくのがいい、と考えてやってきました。

人柄と価値観が合っているかどうか。営業マンだけでなくエンジニアにも、人間性を重視して採用してきた。

――現在は営業リーダーとして活躍する岡部将実さんは、数少ない同業他社からの転職者。中途採用の面談で、人間力について掘り下げて問われたことが強く印象に残っているそうですね。

岡部将実さん: 私が中途採用で入社したのは2005年です。他のディーラーで数年間営業を担当した経験を活かして働きたいと、応募しました。人事や営業の関係者などと面談するのですが、行くたびに「次またきてください」と言われて、なかなかOKが出ないんです。

そのときのやり取りで覚えているのは、「岡部さんが大切にしたいことは何ですか?クルマを売る仕事をしてお金をもらいたい、という気持ちだけでは、うちの会社では続きませんよ」と言われたことです。

(自分は何がしたいのだろう?)と考えさせられました。 それで思い浮かんだのは、前の職場では車を売るのが好きで楽しそうに仕事をしていたわね、という妻の言葉でした。私が何をしたいのかを、以心伝心でわかってくれている妻のために、自分の好きな仕事で頑張りたい。それがやりたいことなのだ、と 自分の中で答えが出たところで、採用が決まりました。

中小企業が新卒採用に成功するには

――ここからは、長年採用担当として実績を残してきた小松友紀さんに伺います。いい人財が採れない、と新卒採用に悩んでいる中小企業が、ネッツトヨタ南国の成功例に学ぶことは多いと思います。採用セミナーなどで、経営者にどういうアドバイスをされているのでしょうか。

小松友紀さん(以下、小松): 採用は、徹底的に人と向き合う仕事です。ときには時間を惜しまず学生さんと語り尽くし、幼少期のつらい経験に涙したり、将来を憂いて共に悩み考えることもある。共感力とリーダーシップが試されます。

中小企業では、専任者を置く余裕がなく、総務のスタッフなどが採用の時期だけ兼務で担当することが多いようです。人財採用の指針などが曖昧なまま、検査スコアに頼ってしまい、人柄を知り見極めるレベルでの採用ができていないように見受けます。

採用セミナーに参加された経営者の方が、わが社にも小松さんのような知見を持ったスタッフがほしい、と訴えられるのですが、 担当者任せにしないで、経営者自らが採用の最前線に立つ、そのくらいの覚悟でやることも必要ではないでしょうか。 弊社の横田も、社長時代にそうやって、優秀な人材を採用する道を切り開いて来ました。

採用部門リーダー兼DX推進室の小松友紀さん。関連会社のビスワークス研究所主催の採用セミナーの講師なども務めている。

優秀社員表彰制度と自己申告考課の狙いとは

――ここからは、横田英毅相談役に伺います。そういう採用活動を経て入ってきた新人が、自らが考えて動く社員へと成長していくわけですが、バックボーンになっている、独自の人事考課制度について教えてください。

横田: 自らが考えて動く社員が育つのを妨げるのは、上意下達や指示命令のマメジメントです。ネッツトヨタ南国では、上意下達や指示命令は一切ありません。 一方で、何をするのが大事なのか、社員自らが気づき、考える環境をつくりました。周りの人と比較しながら、自分を客観的に見る鏡となるものです。それが、双方向の人事考課制度です。

一つが社員の投票に基づいた優秀社員表彰制度。「安全運転推進賞」「地域美化推進賞」などの賞を用意して多くの社員が表彰台にあがります。最大の栄誉となるのが「最優秀社員表彰」で、投票理由はほとんどその人の日頃の働きぶりや他者との関わり方です。周りの社員がその人のいいところを見つけて、褒めてあげるわけです。

もう一つが自己申告考課表です。周囲の評価よりも、自己評価が高くなる傾向がありますが、自分の言動を振り返ることで、自分を客観視することにつながります。

社員の投票によって、「最優秀社員」をはじめとする優秀社員たちが毎年選出される。画像提供:ネッツトヨタ南国

――人事制度の詳細については、小松友紀さんに伺います。まず、優秀社員表彰制度についてお聞かせください。

小松: 優秀社員表彰は年末に社員がその一年を振り返り、推薦したい社員を選び理由を書いて投票します。投票基準に明確なルールはなく、社員一人ひとりその人の価値観で投稿できるところも特徴で、おのずと業績への貢献度ばかりではなく、相手のことを思いやることができるとか、お客様だけでなく社員に対しても親身に接しているなど、その人のいいところに目を向ける、人の見立てをしていくのです。マネージメントの力を育てていく、教育プログラムの一環にもなっています。

――自己申告考課制度の仕組みと狙いについて、お聞かせください。

小松: 自己申告考課表は、その名の通り本人だけで記入するのが特徴です。「規律性」、「積極性」、「協調性」といった大分類ごとに、質問項目が設けてあります。たとえば「規律性」の「挨拶」では、「自分から笑顔で挨拶する」から「あまりしない」まで、11段階で回答します。約220項目もの質問に答えていくので、数時間はかかりますが、日頃の仕事への向き合い方を振り返るだけでなく、会社が求める人間像などを再認識するのです。

また、目覚ましい活躍をしたと思う人の名前を記入する欄があり、周りのスタッフの行動が見えているか、関心を持っているか、人を見立てる力を育てる仕組みにもなっています。

自己申告考課に、マネージャーの人事考課が加わったものが、最終的な考課となり、年2回のボーナスに反映されます。考課は面談で本人にフィードバックされます。

自己申告考課表の記入シートの一例。

――伊藤俊人社長に伺います。このフィードバックの機会を、マネージャー層はどのように位置づけているのでしょうか。

伊藤: 年2回のボーナスの考課は判定会議で全社員分をすりあわせたものを、直属のマネージャーが本人にフィードバックしますが、評価を口頭で伝え、やる気を促して終わりではありません。

私があさくら太陽店の店長をしていたときの話です。日常の業務に関する会話は頻繁にしていても、本人がどういう考えで仕事をやっているのか、なにを望んでいるのか、腹を割って話す機会がなかなかありません。しかし、 チームを運営していくうえでは、互いの考え方を理解し、共有しあえる関係を築くことが大事 です。そこで、マンツーマンでやるフィードバックは、一人ひとりのスタッフと真剣に向き合う場だと考えて臨みました。

スタッフの執務スペースと隣り合わせるようにして社長室があり、誰でも気軽に入れるようにと扉がない。

――スタッフと真剣に向き合うということですが、そこではどんなやりとりがされるのですか?

伊藤: 1人1時間くらいかけて面談します。スタッフのほうは、フィードバックを聞き終えると、会社や支店をこういうふうにしたい、自分はこういう貢献をしたい、という思いや提案を延々と熱く語るのです。

時には、辞めたいです、ということを言い出すスタッフもいて、なぜ辞めたいのか、じっくり話を聞いたこともありました。やりとりを重ねていくことで、スタッフの考えがよくわかるようになり、信頼関係ができあがっていく。組織としての一体感が強まりました。

スタッフがマネージャーに臆することなくモノが言えて、何事にもチャレンジできる組織風土を、これからも大切にしていきたい。それが、経営理念の「全社員を人生の勝利者にする」ことにもつながると考えています。

(取材・文:神田 久幸 撮影:仁田 慎吾)

上司への相談不要、営業ノルマはなし。「自ら考えて動く社員」が育つ組織風土の作り方

 BizHint 編集部 2022年9月8日(木)掲載

自動車ディーラーなのに営業スタッフにはノルマがない。販売奨励金制度はあるものの、販売台数を競う仕組みにはなっていない。それでいて、スタッフはしかるべき販売実績を上げている。高知県、ネッツトヨタ南国の特徴的な組織運営です。「(正解を)教えないし指示命令もありません。緊急の事態には上司に相談なくスタッフそれぞれが自らが考えて動き、結果は事後報告。こういう組織風土だから、社員のモチベーションが上がり、業績に反映される」と言います。1999年から10年以上、トヨタ販売店のお客様満足度でナンバーワンを独走し、今も堅調な経営を続ける独自のマネジメントについて、創業オーナーの横田英毅相談役(下写真)と伊藤俊人社長、同社スタッフの方に話を聞きました。

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ネッツトヨタ南国相談役/ビスタワークス研究所顧問
横田英毅(よこた ひでき)さん
1943年生まれ。日本大学理工学部卒業後、カルフォニアシティカレッジに留学。西山グループ系列の宇治電化学工業、四国車体工業を経て、1980年トヨタビスタ高知発足と同時に副社長に就任、87年代表取締役社長。2007年代表取締役会長、10年取締役相談役。愛媛トヨタ自動車の代表取締役も務める。著書『会社の目的は利益じゃない』。また、横田さんの経営哲学を解説した著書に『「教えないから人が育つ」横田英毅のリーダー学』(天外伺朗著)がある。

ネッツトヨタ南国代表取締役社長
伊藤俊人(いとう としひと)さん
立命館大学法学部卒業。1988年トヨタビスタ高知(2004年ネッツトヨタ南国に改称)入社。営業担当(中古車営業、その後新車営業)として経歴を重ねる。2005年にネッツトヨタ南国初の営業所「あさくら太陽店」の店長に就任。2013年取締役、2016年常務取締役、2017年より代表取締役社長。


ディーラーなのに販売ノルマがない、それで売れますか?

――横田英毅相談役に伺います。営業スタッフにはノルマがないとのこと。報奨金制度はあるけれど、販売台数、売上金額をダイレクトに反映したものではないとのこと。それで、モチベーションは上がるのでしょうか。また販売目標はどのように管理しているのでしょうか。

横田英毅さん(以下、横田): 会社としてこれだけの数字をやるという目安は設けていますし、営業スタッフも販売目標は自己申告し、毎月達成率はチェックします。しかし、それをもとに 営業スタッフにノルマを課すことはしていません。 販売実績にダイレクトに報奨金で報いる。これは外側からの動機づけです。

われわれが配慮しているのは、 営業成績や結果の数字だけを見るのではなく、どういう努力や工夫をしたか、プロセスを重要視して、本人の努力を評価してあげること です。

――報奨金制度はプロセスを重視した評価制度になっているとのことですが、どのようなものか、小松友紀さんに伺います。教えてください。

小松友紀さん(以下、小松): そもそも、各営業スタッフが販売台数を競う仕組みがありません。営業会社にありがちな、一人あたりの販売台数を示す棒グラフなども一切貼ってありません。販売台数は月次ごとに集計し、目標に対して何台だったか、その情報は全社で共有してはいますが、ランキングにはしません。

報奨金制度の評価プロセスは複雑なので、一例をご紹介すると、決まった店を持たないフリーのお客様がたまたま値段の折り合いがついて成約したケースと、担当営業の努力の甲斐あってご家族代々に渡り長くお付き合いくださるお客様が購入にいたったケースとでは、重みが違うものです。そうした成約に至る経緯が反映され評価されるようになっている、ということです。

採用部門リーダー兼DX推進室の小松友紀さん。関連会社のビスワークス研究所でも人財教育関係のキャリアを積んできた。

――独自の奨励金制度が販売のモチベーションにどう関係しているのか?他のディーラーでの勤務経験がある、あさくら太陽店営業リーダーの岡部将実さんはどのように思われますか?

岡部将実さん(以下、岡部): ディーラーに務めた経験は、ネッツトヨタ南国ともう1社だけですので、業界全体のことはわかりません。あくまで私の体験では、ということで話を聞いてください。

前に務めていたディーラーでは、何台売ったかが奨励金にダイレクトに反映されるので、お客様をお金と実績の数字としてしか見ていませんでした。お客様との話は、クルマのことが中心で、今月だけこの値段に割引していますので、いかがでしょうか?そんなふうに商談をしていくわけです。

営業成績を巡っては、周りのスタッフはライバルでした。私が休みの日に訪ねて来られたお客様が「この値段だったらいま買うよ」とおっしゃるので販売した、と横取りされたこともありました。

――それがネッツトヨタ南国ではどうだったのでしょうか?

岡部: ネッツトヨタ南国に入って驚いたのは、販売のノルマがないことです。もちろん、毎月の販売目標を自分で立てて申告し、達成率もマネージャーに報告しますが、数字が達成できなかったからといって、厳しく問い詰められることはありません。

その分、自分なりの営業スタイル、やり方を考えるようになりました。 私からクルマの話は切り出しません。まずは私がどういう人間かを知ってもらうこと。そして、お客様のお子様のことや趣味のことなど世間話をしています。生活まわりや、結婚とか人生の節目には相談に乗ることも多いです。信条は「幸せの案内人」でありたい。 車を売る喜びよりも、お客様の役に立っている、頼りにされている、その喜びが大きいです。

お客様の横取りもありません。私の代わりに対応してくれたスタッフが、私のところに成約伝票をポーンと置いていく、そんなことが当たり前。 横の信頼関係ができています。

「教えない」「指示命令」をしない理由

――冒頭の質問に関連して、横田英毅相談役にもう一つ伺います。「(正解を)教えない」「指示命令をしない」とのことですが、それが、自らが考えて動く人財を育てることと、どう関係しているのでしょうか。

横田: 指示命令は1ランク上の社員が下の社員に向けてするものです。しかし、「俺の言うことを聞け」でやっていたのでは、人は言われたこと以上には成長しません。外側からの動機付けになれてしまうと、自ら考えることを放棄してしまう。これではロボットと同じです。 日頃から自分で考えて仕事をしていれば、1ランク上の社員の価値観と知識・能力が短時間で身に付いていきます。

『「教えないから人が育つ」横田英毅のリーダー学』で、著者の天外伺朗さんが私のことを例に挙げて、経営者が「愚者の演出」をしていると組織が活性化する、フロー経営ができる、と書いているのですが、社員はトップの意向や評価を忖度せずに、自分からどんどんやりたい仕事をやっていくわけです。

――ここからは小松友紀さんにお尋ねします。横田英毅相談役は「(正解を)教えない」ことで、人が育つ、とおっしゃっていますが、通常の会社では、教育や研修のプログラムが仕組み化されています。ネッツトヨタ南国ではどうなっているでしょうか。

小松: 基本的なスキルを習得するための教育は、部署に任され実施されていますが、階層別の研修プログラムのようなものはありません。ネッツトヨタ南国で人が育つ場は、なんといっても、プロジェクトチームの活動でしょう。

エンジニアにも基本的な技術研修は行われるが、整備や修理のやり方は「教えてもらえない」。自分で考えて行う。

人が育つ場「プロジェクトチーム」活動とは

――プロジェクトチームの活動について、具体的に教えてください。

小松: お客様よし、地域(活動)よし、そして社員よし。この「三方よし」の考えを基点に、実際の行動に移していく活動です。

具体的には「いつまでも委員会」「あたりまえ委員会」「こんにちは委員会」の3つのプロジェクトチームがあり、担当の業務に関係なく、全員がどれか1つに参加しています。複数に参加してもかまいません。逆にマネージャー層がこれには参加しない、というのも特徴です。

「いつまでも委員会」は、お客様と私たちといつまでも……という意味を込めていて、お客様を巻き込んだイベントなどを企画し、運営しています。年に2回行楽シーズンにお客様と車で遠足に行くイベント「カーオリエンテーリング」や夏祭り、秋の宵祭り、手の込んだお化け屋敷やプロ顔負けのダンスショーなど、その企画はさまざまです。

一方「あたりまえ委員会」は、毎日の清掃、地域清掃活動、ボランティア活動、交通安全運動など、企業の責任としてあたりまえにやるべきことを推進しています。

「こんにちは委員会」は、高知県内でネッツトヨタ南国のことを知らないお客様に、こんにちは!と知っていただく活動です。郊外のお祭りやショッピングモールなどにサテライト出店したりするなど広報活動をしています。

年2回開催してきた名物イベント「カーオリエンテーリング」。「いつまでも委員会」が企画、運営し、車で出かけた先で家族ぐるみでも楽しめるよう趣向を凝らしている。画像提供:ネッツトヨタ南国

――それらのプロジュクトチームの活動内容を通して、どのように人が育っていくのでしょうか。

小松: 私がリーダーを務めた「いつまでも委員会」のテーマはファンづくり。ですから、お客様をアッと驚かせるような企画が目白押しです。 お客様の想定を超える出来事でなければ感動には繋がらない と考えています。

ですから、できそうもないような困難なチャレンジの連続。お弁当を持ち寄ってランチミーティングを繰り返し、本番が近づけば通常業務が終わってから居残って大道具小道具の製作からダンスの練習まで、心血を注ぎます。 そうしたなかで、日頃の業務では一緒に仕事をすることのない社員と触れ合い、相手の人柄を知ることができたり、隠れた得意技などを目の当たりにすることで、互いに尊敬、尊重の関係が育まれていく のです。

また、ネッツトヨタ南国では、各プロジェクトチームとも、全員で納得がいくまで話し合って、答えを導き出します。ときには40人規模のミーティングを全会一致までこぎつける。こうした場でリーダーを務めたり、まとめ役をすることで、マネージャーとして求められる資質、能力が自然と磨かれていく、まさに人が育つ場なのです。

伊藤俊人社長も業務外に行われるプロジェクトチームの活動が、人として育つ貴重な場だったという。

――ここからは伊藤俊人社長に伺います。日常の仕事や業務を通して、人は磨かれ、成長していくのが一般的だと思います。それに加えて、プロジェクトチームの活動が、人が育つ場としては大事とのことですが、経営者に求められる人間性や見識を、プロジェクトチームの活動を通してどのように身につけてこられたのでしょうか?

伊藤: プロジェクトチームの活動は業務時間外に行いますが、お客様に対するサービスや地域社会との関わりなど、ネッツトヨタ南国の課題や将来について、部署の枠を超えて語り合う場です。 マネージャーが介在しない、フリーな経営会議の場 ともいえるかもしれません。

そこでは、先輩か後輩か、上司か部下か、そういう立場に関係なく議論をしますので、意見がぶつかり合うこともあります。先輩のアドバイスや、ほかの人の話を黙って聞いているだけでも、あんな考え方もあるんだなとか、勉強になるのです。そして、何年か経って自分が先輩の立場になってみると、先輩と同じようなことを後輩に言っている。こうして知らず知らずのうちに成長していた、プロジェクトチームという場で育ててもらった、ということに後で気づくのです。

コロナのクラスター感染で欠員続出の事態に、現場スタッフだけで対応策をまとめ、社長へは事後報告しだだけという。

――プロジェクトチームの活動によって、人が育ち、自ら考えて動くようになっていく、ということですが、それが通常の業務にどのように反映されるのでしょうか。

伊藤: この5月にサービスエンジニアにコロナ感染が続発したときの対応を例にお話しします。感染のピークの時には6,7人が揃って出社できない状況になりました。「御社の発生状況をクラスターと認定します」と保健所から連絡がきたほどです。

そんな状況であっても、作業が遅れて5月が車検のお客様に迷惑をかけるわけにはいきません。人員が欠けた状態でどう対応するのか。現場のスタッフだけで話し合って、一部のスタッフには休日を返上して出勤してもらうなどして、作業予定を一日で組み直してしまったのです。

社長の私のところには「こういう対応にしました」と事後報告に来ただけ。 いちいち上司や責任者に相談し、判断を仰いでいたのでは、対応が遅れてしまいます。社員自らが考えて動くことで、ベストの対応ができたのです。ネッツトヨタ南国らしい組織風土を体感できた出来事の一つです。

(取材・文:神田 久幸 撮影:仁田 慎吾)

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