リサーチやレポート作成、企画立案のためのディスカッションをバーチャルで行うなど、コンサルティング業務の現場でもChatGPTは大活躍中だ。さらに、ChatGPTを導入したいという企業に対してのコンサル案件も急増している。現場で使える専用プロンプトを四つ紹介する。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)

顧客への導入案件も急増中コンサル業務の現場での活用は?
ChatGPTの大流行は、顧客企業への導入を支援するコンサル業界に特需をもたらしている。「現在動いている案件数は数十件規模、問い合わせだけだと100件以上に上る」(森正弥・デロイト トーマツ コンサルティング執行役員)。
デロイトでは1業界ごとに50~80、全体で数百にも上る活用提案例があるという。そして、市場取引が活発な原材料価格の予測や、システム開発、AI(人工知能)創薬、コールセンター、社内での問い合わせ対応などといった形で活用を図ろうと、あらゆる業界で導入が進みつつある。
企業がChatGPTを事業に導入するときには、事業フローや業務の見直しも伴う。セキュリティー対策や基幹システムと連携させる作業なども発生するため、それに伴うコンサル需要も増えるというわけだ。
もちろん、外に売り込んでいるだけではない。コンサル各社は自社内でもChatGPTをフル活用している。顧客の経営課題の解決や、コンサル内容をレポートやプレゼンテーション資料などの成果物としてまとめる際に利用するなど、頭脳労働の代表格とされるコンサル業界での活用方法は、異業種でも大いに参考になるはずだ。
次ページでは、デロイトと三菱総合研究所にその代表的なプロンプトを紹介してもらった。コンサル企業ならではのプロンプトを四つ紹介しよう。
ChatGPT利用の自動レポート作成で情報収集にかかる時間が8割も短縮!
大手コンサル企業で軒並み対応が進んでいる生成AI。デロイトでは社内のコンサルタント5000人にChatGPTなどの生成AIの技術を習得させ、社内での活用事例を顧客企業への提案に生かしている。
デロイトの社内で使われる代表例が、通常は人間を相手に意見を聞いて、自らの考えを深める「壁打ち」だ。一つの議題に関して、本来複数人が集まってディスカッションをして内容を深めていくところを、ChatGPTの中で異なる立場の人格を何人か登場させ、“バーチャルディスカッション”をさせる。具体的には以下のようなプロンプトになる。
▼プロンプト
ビジネスマン向けの軽量ノートパソコン製品のデザインを考えたいです。どのような要素や注意点が必要でしょうか。プロダクトデザイナー、弁護士、エンジニア、ユーザーの4人にディスカッションさせてください。
▼アウトプット
プロダクトデザイナー(P):ビジネスマン向けの軽量ノートパソコンを考える場合、まずデザイン性と機能性のバランスが大切です。シンプルでありながら高級感のあるデザイン、薄さや軽さを追求するとともに、耐久性も確保しなければなりません。
エンジニア(E):確かに、軽さは重要ですが、それと同時に性能もキーポイントです。起動時間の短さ、高速な処理能力、長時間のバッテリー持ちなど、ビジネスでの使用を考慮したスペックが求められます。
ユーザー(U):私がビジネスで使う場面を考えると、外出先や出張先での作業も多いです。だから、持ち運びやすさはもちろん、Wi-Fiの接続性や複数のポートを持っていることも重要です。また、キーボードの打鍵感も良いものがいいですね。
弁護士(L):そして、データの保護とセキュリティーも非常に大切です。ビジネスで使用する場合、機密情報が含まれることも多いため、高度なセキュリティー機能や、万が一のデータ漏えい対策が必要です。また、使用許諾や保証など、法的な側面からのサポートも考慮しなければなりません。
P:ユーザーエクスペリエンスを向上させるためにも、液晶画面の見やすさや、冷却機能、そして静音性も重要だと思います。
E:その点に関しては、最新の技術を取り入れることで、高性能ながらも薄型・軽量を実現することが可能です。また、冷却や静音性に関しても最適化を図ります。
U:そして、アフターサポートも非常に大切です。故障時のサポートや、簡単なトラブルシューティング方法など、サポート体制がしっかりしていると安心して使用できます。
L:その点に関しては、製品の保証期間やサポート内容を明確にし、利用者に適切な情報提供を行うことが大切です。
全員:それでは、それぞれの意見や要望を基に、最適なビジネスマン向けの軽量ノートパソコンを設計しましょう!
バーチャルとはいえ、それなりの内容の議論ができた。
ChatGPTを利用した自動レポート作成システムを既に稼働させているのが三菱総研だ。何らかのテーマを入力すると、ウェブ上の公開情報などから蓄積したデータベースを基にレポートを作成することができる。三菱総研の社内で活用されており、情報収集の時間を8割も短縮できる。社外向けにも提供を進めているという。
「一度も触ったことがない新しいテーマについて、短時間で基礎的なことを学ぶのにChatGPTは便利だ」と三菱総研の比屋根一雄研究理事は指摘する。これまでは関連書籍を選んで何冊か読むなどしていたが、そういった時間を相当程度省けるのだ。農業を例として、以下のプロンプトとアウトプットを紹介しよう。
▼プロンプト
日本の農業について学びたい。農家が置かれた環境や、産業として見た場合の国際的な競争力比較をしてください。
▼アウトプット
日本の農業は、その地理的、経済的、社会的条件から見て独特な特徴を持っています。以下に、日本の農業とその国際的な競争力について概説します。
日本の農業の特徴と課題
小規模経営:日本の農業は伝統的に小規模で、地域ごとの個々の農家が主な生産者です。これは、日本の地形と土地利用の制約からくるもので、経営規模の拡大や効率化に制限を与えています。
高齢化:農業人口の高齢化は深刻な問題で、若い世代の農業への参入が不足しています。これは、農業の労働強度と所得水準、また都市部への人口流出などが影響しています。
生産コスト:日本の農産物の生産コストは、労働力コストや地価、さらには農薬や肥料などの入力コストが高いため、国際的に見て高いといえます。
日本の農業の競争力
日本の農業の国際的な競争力は、量的な生産力だけでなく、品質や付加価値にも関連しています。
品質と安全性:日本の農産物はその高い品質と安全性で知られています。特に、果物や野菜、米などはその風味と品質が高く評価されています。これは、日本の農産物が高価でも消費者から求められる一因となっています。
地域ブランドと特産品:地域の特産品やブランド農産物は、日本の農業の競争力を支えています。例えば、新潟のコシヒカリや山形のさくらんぼ、高知のゆずなどは、その地域でしか作られない独特の風味と品質を持っています。
技術革新:精密農業やスマート農業、有機農業などの新技術の導入により、日本の農業は生産性を向上させ、環境への負荷を軽減する方向に進んでいます。
しかし、これらの強みにもかかわらず、日本の農業は生産コストの高さや市場規模の制限などから、価格競争力においては苦戦しています。特に、国際的な自由貿易の進展により、安価な輸入農産物との競争が厳しくなっています。このため、日本の農業はその持続可能性と競争力を維持するために、生産性の向上や市場開拓、ブランド化などの戦略を追求する必要があります。
レポート作成のテーマ設定や内容の添削もお手の物
ChatGPTは、コンサルやシンクタンクで日常的に行われているレポートの作成にも役立つという。具体的な使い方を教えてもらった。
まず、特定のテーマや対象に合った文章を書くときに、注意ポイントを列挙するプロンプトを見ていこう。
▼プロンプト
あなたは金融機関向けのビジネス誌の編集者です。記事の原稿に対して、どのような観点でチェックするか、箇条書きで示してください。
▼アウトプット
以下の観点から確認します。
1内容の正確性:情報は正確で、最新のものであるか。具体的な数値、統計、事実が正確に報告されているか。
2主題の関連性:内容は金融機関にとって関連性があり、価値があるか。対象読者の関心に合っているか。
3理解のしやすさ:専門的な内容であっても、一般のビジネスパーソンでも理解できるように説明されているか。
4記事の構造:一貫性と論理的な構造があるか。明確な導入部、中心部、結論部があるか。(以下略)
5言語と文体:プロフェッショナルながらも読みやすい言語と文体が使用されているか。文法やスペル、句読点の使用が適切か。
6コンプライアンスとエシカル(倫理的)な観点:全ての論理が法的な規定と業界の標準に従っているか。エシカルな観点からも問題がないか。
7視覚的な要素:図表、画像、インフォグラフィックが記事の理解を助けるように適切に使用されているか。
8引用と出典:他人の言葉やアイデアを引用する場合、適切に出典が明示されているか。
9意見と事実の区別:報道と意見が明確に区別されているか。主観的な意見が述べられる場合、それが著者の意見であることが明確に示されているか。
10独自性と新規性:記事は独自の視点を提供し、新鮮な情報または洞察を提供しているか。
これらの観点は、記事が品質の高い情報を提供し、読者に価値を提供するために重要です。
さらに、作成したレポートの内容を添削することもできる。先ほどのアウトプットで提示されたポイントのうちから特定の点についてチェックを頼むと以下のようになる。
▼プロンプト
上記の点のうち、「理解のしやすさ」「言語と文体」について、以下の原稿をチェックしてください。
(原稿を貼る)
▼アウトプット
以下にそれぞれの観点でのフィードバックを提供します。
1理解のしやすさ:
原稿は専門的なテーマにもかかわらず、理解しやすい言葉と例で説明されています。生成AIの潜在的な利用可能性とその影響を具体的な例を用いて解説しています。
2言語と文体:
全体的には読みやすい文体が使用されていますが、幾つか提案があります。一部の部分で、「業務マニュアルの手続き照会、稟議書・企画書の作成支援等である」というような、文が途切れている感じがあります。これらの部分は、「例えば、業務マニュアルの手続き照会や稟議書・企画書の作成支援などが挙げられます。」のように修正すると一貫性が出ます。
三菱総研は現在、顧客向けの成果物にChatGPTを活用することは直接的にはしていない。だが、社内向けのレポートのたたき台や、過去の資料のアップデートなどには十二分に使える水準とみている。
ただ、利用には注意すべき事もある。ハルシネーション(もっともらしい虚偽の事を述べること)の問題だ。
「出力内容が怪しいときは、『それは本当か』と問い直すことが重要だ。ChatGPTは自身が自信を持てない、あやふやな内容を生成する際に、内容が二転三転する傾向がある」(比屋根氏)という。
また、検索機能についてもChatGPTは弱い。情報収集の範囲は、Google検索が収集してくる内容よりもはるかに劣る場合もある。資料の出典が示されない問題もあるので、Bing AIや、Perplexity AIなど別の生成AIツールも併用する必要がある。
このように、コンサルの業務自体への使いこなし術は、それなりの入力ノウハウと、出力された内容をしっかり確認できる判断力が必要になる。しかし、「うまく使えば新人コンサルが自分のスキルを向上させるために役立ちそうだ」と比屋根氏は期待する。
人によって持っているスキルのレベル差が激しく、そのノウハウが同僚や後輩に共有されることが意外と少ないコンサル業界。
改善傾向にあるとはいえ、プロジェクトの最盛期には連日深夜残業が続くなど労働強化が問題となる業界でもある。ChatGPTでこれまで個人に閉じていた知と経験の共有が進めば、コンサル業界内の業務の効率化がさらに進展するかもしれない。
Key Visual by Noriyo Shinoda