DXの進め方についての一例です。
DXは、デジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略です。
「DT」ではなく「DX」と表記されるのは、英語圏では交差するという意味を持つ「trans」を「X」と略すことがあるためといわれています。
経済産業省は、2018年12月に発表した「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)Ver. 1.0」において、DXを下記のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
DXとは、データとデジタル技術によって商品やビジネス、業務、企業文化等の変革を成し遂げるものであり、その目的は競争力の維持・獲得・強化を果たすことにあります。
「ソロ情シス」だからできるDXの進め方
2022.06.17 熱海 徹 氏
リモート会議では会話のキャッチボールが難しい?
過去コラム「 会話のキャッチボールから人脈作りは始まる 」では、人脈形成のカギは会話のキャッチボールと説明したが、すでに定着しているものの、リモート会議などの非対面での対話では思うようにキャッチボールができていないと感じることが多い。
リモート会議では、相手を見ながらしゃべると視線がずれるし、カメラを見ていると相手の目や顔が見られない。相手の顔をパソコンのどの位置に配置するかだが、カメラに近い場所がベストだと思う。しかし、たくさんの人数の会議の場合には難しい。
非対面でも目を見ながらの会話は苦手な方もいる。モニター画面の中にカメラが埋め込まれていれば最高だが、アイディアはよいが「そこまで必要なのか?」が疑問である。何かよい方法を知っている方は連絡してほしい。
2025年の崖が間近に迫っている
情シスの現場において関心度が高い問題の1つと言われる「2025年の崖」だが、もはや会社としても知らんぷりができない時期が来たのではないだろうか。突然、経営者が「わが社のDXはどうするか」と言ってきてもおかしくない。
しかし、「そう言われても情シスは僕1人だし、無理」と返事したくなるのも理解できる。情シスは1人しかいないが、社内ITに関することは行っているし、経営的には充分貢献しているのに、これ以上の仕事は当面無理と考えていても不思議ではない。
コロナ禍による新しい環境が定着してきたことや、経済の影響による社内ルールの見直しなどによるシステム変更作業が待ち構えているのではないだろうか。機器の老朽化による更新作業もあるはずだ。2025年の崖は理解していても、どこから手を出していけばいいかわからない。厄介なのは、これまでIT活用にそれほど積極的でなかった経営者がデジタルトランスフォーメーション(DX)をやれるか?…に対する回答である。
今日のコラムは、このような場面になった時「ソロ情シス」がプラスDX対応についてどのように回答すべきか、どのように進めていくべきか、ヒントをお話ししたい。

社内向けのDXは大げさで特別なこととして考えない
情シスとしては、これまでやってきたことをこれからも継続し続け、時代の流れに合わせて自社のIT環境をよりよい方向に導くことが大切である。DXをあまり特別な扱いにしないことが大事ではないだろうか。
僕の考えであるが、「自社の扱っているデータがどう活用されているか」、「よい循環で回っているか」、「障害が発生した時のリカバリができる環境になっているのか」、この3点に的を絞っていけばいいのではないだろうか。まずは現状を知ることから始めてもよいのだ。この部分を把握できれば、経営者からくる突然の質問に対しても回答ができるのである。
DXを推進していく上で、アナログ的な業務のデジタル化が目的になることが多い。しかし、アナログ業務は人やレガシー的なものが多いため属人化している場合がある。DXが進まない原因の一つに、属人化されたデータの扱いが関係しているのである。
このように、「個人」がデータを抱えて属人化しているところは、新しいIT環境を導入する上で最も難関なのかもしれない。2025年には崖が待っているが、DXをスムーズに推進するためには壁が存在しているのである。
ITの歴史から考えると、かつては自分のデータは自分のパソコンで管理するものだったため仕方ないが、この属人化データをどうにかしなければいけないのである。情シスは、まずは現場に入り込み、複雑化した人やシステムの現状を少しずつ紐解いて、信頼を得ながら進める必要がある。これは、ソロ情シスにとっては得意な作業かもしれない。
デジタル化の環境を作るために何が必要か
属人化データが存在する背景には、色々な問題が存在している。その背景には、当然、デジタル化に向けた環境整備がからんでいる。少し過去を振り返ってみよう。
これまで多くの企業では、処理するデータをデジタル化してPCに引き込み、社内や部署内に点在していたデータやファイルを集約する場所(共有サーバ)を作り、重要なデータを集めてきた。このようにして、データを活用しやすい環境を作り、共同作業をしやすくするなどして仕事を効率化してきた。
しかし、そのためのサーバをどこに置くのか?…空調環境のよい場所で、ファンの音が気にならない場所ということで、人の出入りのない倉庫になることもあった。また、各部署にNASを設置したり、個人で外部HDDを接続したりして管理することもよくあった。そのため、デジタル化が進むと属人化データも増えるのが当然のことだった。
しかし、問題はデータ管理である。この部分がDXを推進する上で基本になる部分ではないかと思う。データを集めて活用しやすい環境を作ると同時に安心して使ってもらうためにバックアップ機能が必要である。例えば、間違ってファイルを壊してしまった場合でも、少し前の状態に戻せるシステムを構築することは重要だ。さらに、必要な人だけデータが見られるように、アカウント管理やアクセス管理をするなど、個人PCで管理するよりも使いやすい環境を提供することではないかと思う。
よい循環でデータを回すことが、よいIT環境なのである。各人のPCのデータを共有ストレージに移動することで安心・安全になることを、社内に具体的に示すことが必要で、それでこそデジタル環境での運用範囲が広がっていくと考えられるのである。
しかし、デジタル化が進むということは、一度に扱えるデータ量も増えるということで、PC自体の能力についても目を向けなければならない。PC自身の動作が遅かったり、PCの立ち上がりに時間がかかっていたりすると、情シスの仕事も増えるからである。
新しい環境を考える場合、PCの動作環境も整備方針に含めてほしい。予算的には難しいこととは思うが、起動時間が早くなるだけで、情シスの負荷が減るのは間違いない。
職員のアイディアからDXは生まれる
デジタル化が進むと、データが活用しやすくなり、そのデータを活用する開発者が生まれたりする。デジタル化されたデータ利用については、現場の人からも次々にアイディアが出るようになる。
DX推進はこのようなインフラ環境が整っている中で生まれるのかも知れない。さらにデータの精度やリアルタイム性が求められるようになるため、データのセキュリティも重視され安心、安全な運用が可能になるのだ。このような組織を作ることがDX推進の業務と言ってもいいのである。
まとめ
DX推進においては、「ソロ情シス」にできることは限られていると考えるのではなく、「ソロ情シス」だからこそできるものから取り組んでもらいたい。まずは、社内の属人的データを共有化するところから始めてはどうだろうか。データをよい循環で回すことを考え、IT環境への変化に慣れさせることを実施してほしい。
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■著者紹介■
熱海 徹(あつみ とおる) 氏
1959年7月23日、仙台市生まれ、東京都在住
40年近く日本放送協会 NHK に籍を置き、一貫して技術畑を歩んできた。転勤の数は少ないが、渡り歩いた部署数は軽く10を超えている。その中でも情シス勤務が NHK 人生を決めたと言っても過言ではない。入局当時は、放送マンとして番組を作るカメラマンや音声ミキサーに憧れていたが、やはり会社というのは個人の性格をよく見ていたんだと、40数年たった現在理解できるものである。20代の時に情シス勤務をしたが、その後に放送基幹システム更新、放送スタジオ整備、放送会館整備、地上デジタル整備等、技術管理に関する仕事を幅広くかかわることができた。今まで様々な仕事を通じてNHK内の人脈が自分としては最後の職場(情シス)で役に立ったのである。考えてみたら35年は経過しているので当たり前かもしれない。2016年7月には自ら志願して、一般社団法人 ICT-ISAC に事務局に出向し、通信と放送の融合の時代に適応する情報共有体制構築を目標に、放送・通信業界全体のセキュリティ体制整備を行った。ここでも今までの経験で人脈を作ることに全く抵抗がなかったため、充実した2年間になった。私の得意なところは、人脈を作るテクニックを持っているのではなく、無意識に出来ることと、常に直感を大切にしているところである。
おまけ
せっかくなので記事を読んだだけでなく、DXが注目されている4つの理由とDX化への課題を豆知識として覚えておきましょう。
DXが注目されている4つの理由
DXを取り入れた優良な企業戦略・経営をする事業者を認定する「DX認定制度」等、経済産業省は国内企業のDX化を強く推奨し、サポートしています。企業側もまた、それに呼応してDXの導入を始めており、その波は大企業だけではなく中小企業にまで波及しつつあります。
ここからは、DXがこれほどまでに注目されている4つの理由をご紹介します。

1 レガシーシステムによる「2025年の崖」を回避できる
DXが注目されている理由としては、DXによってレガシーシステムによる「2025年の崖」を回避できることが挙げられます。
「レガシーシステム」や「2025年の崖」は、初めて聞く方も多いかもしれません。
日本では、1980年代に多くの企業がコンピューターを用いた財務管理や会計処理、在庫管理、給与計算、伝票発行等に用いる基幹システムを導入しました。
その後、40年近くが過ぎた現在では、それらのシステムは老朽化し、カスタマイズを重ねた結果、複雑化・ブラックボックス化しています。
これが、「レガシーシステム」です。
2018年に経済産業省が公表した「DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~」では、IT人材が不足している昨今、最新の技術に対応することが難しいレガシーシステムの保守・運用に多くの人的リソースが割かれていることが指摘されています。
さらに、同レポートで「DXが進まなければ2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性が高い」という旨の警告をされたのが「2025年の崖」です。
12兆円もの経済損失という数字は、当時の日本社会に大きなインパクトを与え、これを回避するためのDX化が早急の課題であるとの認識を広めました。
2 市場競争力を高められる
競争力の高い製品やサービスを提供し、市場競争力を高めるためにも、DX推進は欠かせません。
なぜなら、AI、IoT、クラウド、5G等の新しいデジタル技術を駆使した商品を作り出すことが、国内はもちろん海外市場における競争力を確保し、強化することに直結するからです。
また、DXは生産性向上や業務効率向上にも寄与します。
たとえば、生産現場におけるセンサーとAIによる異常検知や故障予兆検知のほか、クラウドサービスの利用による運用負荷の削減や場所を選ばない業務遂行、ペーパーレス化による利便性の向上といったデジタル技術の活用は、いずれも省人化・省力化の推進につながります。
DXによって従業員は、従来の定型的な作業から解放され、新しい価値を生み出す業務に集中できるようになります。
3 変化する消費者ニーズに対応できる
DXは、変化し多様化する消費者ニーズへの対応や、顧客体験の向上にも役立ちます。
ウェブベースのセールスによる優良顧客の確保、顧客データ、販売実績データの分析にもとづく、的確で迅速なマーケティング施策の実行等はその代表例です。
そして、IoTが今以上に普及すれば、消費者の行動に関する膨大なデータを収集し、AIや機械学習による分析にもとづいて生産を調整したり、商品開発にフィードバックしたりすることも可能になります。消費者の生活に密着した、きめ細かくニーズに寄り添うビジネス展開が行われるようになるでしょう。
4 BCPにつながる
BCP(事業継続計画)の観点から、DXの有用性を捉えることもできます。
とりわけ、新型コロナウイルス感染症の拡大は、インターネットとデジタル技術を活用することが事業継続のカギとなることを、強く印象づけました。
テレワーク(リモートワーク)は、働き方改革の側面だけではなく、緊急時に事業や業務を継続する手段としても有効です。
図らずも、コロナ禍によりテレワークが普及したことで、DX推進の波は中小企業へも押し寄せる格好となりました。
DXを進めるにあたっての課題
多くの企業でDX推進への取組が始まっていますが、一方で乗り越えなければならない課題もあります。続いては、企業にとってハードルとなりやすいDX推進の課題を3つご紹介します。
社内でのDXに対する理解
DX推進をデジタイゼーションやデジタライゼーションの段階にとどめないためには、DXの本質に対する理解が不可欠です。
経営層がその意義や必要性を深く理解し、自社が目指すべきビジョンと戦略を策定しなければなりません。
その上で、従業員全体にも理解を求め、協力を得ながらDXを進めていくことが重要です。
ただしDXは、あくまで企業が特定の目的を達成するための手段であり、それ自身を目的とするものではない点に留意は必要です。
DX人材の不足
DX人材の不足は、多くの企業が抱えている課題です。DX人材とは、デジタル技術やデータ活用に精通した人材であり、DXをリードする、あるいはDXの実行を担っていく人材のことを指します。
DX人材を確保するため、各企業は社外からDX人材を獲得する、社内で育成する、外部パートナーにアウトソーシングする等の方法を駆使し、模索しています。
DXへの投資が必要
最初にまとまった投資が必要である点は、DX化を進める際に、企業が抱える課題のひとつです。
レガシーシステムを抱えている企業は、システムのモダナイゼーションに取り組む必要があります。
DXにふさわしいIT基盤については、オンプレミスとクラウドのハイブリッドやオールクラウド等が考えられますが、いずれにしろ新たな投資が必要になることは間違いありません。