
孫正義の「危機を突破する発想術」をChatGPTで超効率的にまねる方法
三木雄信 経営・戦略News&Analysis
2023.5.30 4:20
ソフトバンクグループ(SBG)の孫正義会長兼社長 Photo:NurPhoto/gettyimages
孫正義氏が事業創造のための発想術に「アイデア掛け算」なるものを使ってきたのをご存じだろうか。誰でもまねできるシンプルな手法で、かつ今ならChatGPTで超効率的にできる。実際の質問と回答(最初の10パターン)を紹介しよう。(トライオン代表取締役 三木雄信)
孫正義の「危機を突破する発想術」ChatGPTで超効率的にまねできる!
前回の記事、『孫正義氏の元側近は「大赤字」ソフトバンクの再起を確信、20年前の復活劇と酷似』では、孫正義氏の基本戦略である、変化の中で生き残った“最終武器”を軸に、次の時代に“一点突破”を図る作戦について解説しました。
今回は、孫氏の「危機突破術」の一つを紹介します。それは、「アイデア掛け算」です。
このアイデア掛け算というネーミングは、かつてソフトバンク社長室長を務めていた私が名付けたものですが、孫氏が実際に行っていた、事業創造のための発想術です。孫氏のアメリカ出張に同行した際に、孫氏の母校であるUCバークレーの構内を散歩しながら直接聞いた話です。
アイデア掛け算の方法は簡単です。基本は、「キーワード」と「プロダクトやサービス」を掛け合わせます。例えば、携帯電話は「携帯」することと「電話」の掛け算でできた単語で、「携帯」×「電話」=「携帯電話」と解釈できます。
まず、最初のポイントは、プロダクトやサービスの特徴を示すキーワードを大量に出すことです。キーワードは、そのプロダクトやサービスを形容する言葉になることが多いと思います。孫氏は、自分自身でキーワードをカードに書き留めていました。
次に、プロダクトやサービスを考えます。自社の既存プロダクトやサービスでもいいですし、今後進出したい分野やマーケットで考えるのもOKです。
キーワードもプロダクトやサービスについても、あまり深く考えすぎる必要はありません。この段階では、とにかく数を出すことに注力しましょう。
これらの作業をするために、孫氏はかつて、UCバークレーにあったコンピューターにキーワードとプロダクトやサービスを入れ、自動的に組み合わせを出すプログラムを運用していたそうです。
このアイデア掛け算という発想術を、私もまねしてきましたし、周りの人にも勧めてきました。長らく、キーワードは、インターネットでヒット商品を検索して探していました。が、最近、ある画期的なやり方に気づきました。
実は、アイデア掛け算にはChatGPTがとても便利なのです。キーワードを探す作業こそChatGPTの得意分野であり、もう自分でキーワードを探さなくても、ChatGPTが探してくれます。
また、プロダクトやサービスについては、自社が属する業界、あるいは販売経路、または自社名でスコープを指定するとうまくいきます。その他にも質問する際の工夫が多少必要ですが、何回か試してみると、すんなりいきます。
実際、次のような質問をすると、いくつもの回答をChatGPTは出してくれました。とても興味深いので、最初の10パターンをご紹介します。
【ChatGPTへの質問】
2020年に日本で検索件数の多い商品で、商品名やキャッチコピーに使われているキーワードと家電量販店で売られている商品一つずつの組み合わせで、面白い商品案を100個作ってください。
「数の勝負」はChatGPTに任せ「質の勝負」を人間が担えばいい
【ChatGPTの回答】
スマートウオーターボトル=「健康管理」+「ハイテク」
メガネクリーナーロボット=「スマート」+「清潔」
スマートマッサージャーシート=「リラックス」+「快適」
フィットネスチップ=「トレーニング」+「データ分析」
ミラクルシューズ=「疲労軽減」+「歩きやすい」
グルテンフリーパンケーキメーカー=「健康食」+「簡単調理」
デジタルお絵描きパレット=「クリエイティブ」+「デジタルアート」
スマートリモコンソックス=「家電操作」+「快適」
ドライブ中フットマッサージャー=「リフレッシュ」+「ドライブ」
プラントフィットネスセンサー=「植物成長」+「データ収集」
(以上が最初の10パターンで、この後90パターン続きました)
どうでしょうか? ヒット商品の見込みがありそうなものも出ている気がします。「グルテンフリーパンケーキメーカー」や「ドライブ中フットマッサージャー」は、私はあれば欲しいなと思いました。
しかも、アイデア出しのスピードが速いこと速いこと。ChatGPTは約1秒で1パターンを生成してくれました。自分で考えるより、はるかに容易に大量のパターンを生成できます。
これらのパターンの中から、市場規模の予想や自社のブランド、技術などの強みとの適合性や実現可能性などを考えて選別すれば、ぐっと効率的です。とにかく、たくさんのアイデア出しをする「数の勝負」はChatGPTに任せ、そこから選別する「質の勝負」を人間が担えばいいのです。
発想の枠にとらわれないChatGPTですから、なかなか思いつかないユニークな商品のパターンを出してくれる可能性もあります。このことは、現代の将棋の世界でAIによって従来の定跡を超えたイノベーティブな手が開発されていることと、本質は同じだと思います。
もっとも、ChatGPTには限界もあります。学習データは2021年9月までのもの(一部のユーザーにはオプション機能もあり)ですし、一見正しいようでも事実ではないことを回答する場合もあります。
しかし、そもそもアイデア掛け算に正確・不正確は関係ありません。この発想術の目的はあくまで、数多くのパターンをひねり出すことで、思考の枠を取り払うことだからです。この点、アイデア掛け算はChatGPTにぴったりのタスクだと思います。
孫氏の事業創造は、決して天性の勘などではなく、アイデア掛け算なるシステマチックな手法で行われています。そして、その手法は誰でもまねでき、かつChatGPTでさらに効率的にできるようになりました。読者の皆さんもChatGPTによるアイデア掛け算で、新しい事業創造に挑戦してみてはいかがでしょうか。