Private arrest type youtuber

『こち亀』両さんの爆笑知識が教えてくれる!?「私人逮捕系YouTuber」の大問題

2023.12.12 11:00

写真:「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の最終回が掲載された漫画誌「週刊少年ジャンプ」
「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の最終回が掲載された「週刊少年ジャンプ」  Photo:JIJI

人気マンガ『こちら葛飾区亀有公園前派出所』でジョークの題材になっている、警察官の仕事にまつわる法律。主人公の警察官「両さん」こと両津勘吉が、それに関する爆笑知識を披露することがギャグのオチとなっている。ただ両津の適当発言には、昨今の「私人逮捕系YouTuber」の問題点について、いろいろ考えさせられるところがある。(イトモス研究所所長 小倉健一)

私人逮捕系YouTuberに弁護士が多くの懸念を表明

 私人逮捕系YouTuberが話題だ。「パトロール系」とも称されるある特定個人がSNS上で多くの動画を公開している。これらの動画では、盗撮や痴漢、不正転売などの犯罪行為をしたと疑われる人を取り押さえて、私人が逮捕を試みている事例が数多く確認されている。

 場合によっては、公衆の場において特定の人物を不正行為者と勝手に断定し、その「逮捕」を名目にした拘束の様子を映像に収め、これをSNSに掲載する事例もある。

 これらの映像はしばしば公開を目的としており、当事者の顔が判別できるものも少なくない。これらの映像は広く拡散され、投稿者はその閲覧数に応じた収益を得ている。

 確かに、「現行犯」など一定の条件の下に限り、一般市民による逮捕は法的に許容されている。しかし、前述のような映像には私的な制裁の執行や個人のプライバシー侵害といった多くの懸念が伴う問題が指摘されている。

 軽犯罪法に詳しい城南中央法律事務所(東京都大田区)の野澤隆弁護士は、こう懸念を表明する。

「自分の危険を顧みず路上で発生した強盗を取り押さえたり、電車内での迷惑行為を阻止したりすることは、『無償の正義』『市民の公共精神』が土台にあれば、テレビや新聞が扱う美談、つまり『お手柄逮捕』として警察署などで表彰されるべきものです。しかし、昨今の私人逮捕系YouTuberは、収益目的、少なくとも今後の活動の宣伝目的などが背景にあります。これでは美談の前提が崩れ、やりすぎともいえる逮捕行為に走る者、ひいては積極的なけしかけ行為によって無理やり事件化させようとする者が現れてしまうものです」

「普通の市民感覚を持つ人々が『警察官、ガードマンでもない一般人による現行犯逮捕行為はマズイよ、後々、何を言われるか分からず損するよ』と判断し、悪事を見過ごてしまう事態が発生しかねない状況です」

「もともと日本では、戦前の治安維持法などによる弾圧時代から始まり、戦後の軽犯罪法・迷惑防止条例の安易な適用などに加えて、警察権力による逮捕の前段階の行為ともいえる職務質問で嫌な思いをしている人々も多いのが現状です。逮捕行為に対して消極的なイメージを持つ人は相当数存在しており、私人逮捕系YouTuberによる一連の事件が、そうしたイメージに一層拍車をかけている可能性がかなりあります」

働けるのに働かないで浮浪→逮捕?歩道でキャッチボールでも逮捕!?

 軽犯罪法で罪とされるケースには、例えば「浮浪の罪」という通称の項目がある。「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、且つ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」が罪とされている。もし、このケースに当てはまる人を私人逮捕系YouTuberが取り囲み、逮捕だ!と騒ぎ立てている状況があったとすると、私には「弱いものイジメ」にしか映らないかもしれないが、法的に正しいのは私人逮捕系YouTuberということもあり得る。

 また、「危険物投注等の罪」の項目では「相当の注意をしないで、他人の身体又は物件に害を及ぼす虞(おそれ)のある場所に物を投げ、注ぎ、又は発射した者」とある。これは、泉総合法律事務所の公式ホームページによれば、「路上にバナナの皮やガラスの破片を投げ捨てる行為」「歩道でキャッチボールをする行為」のような例を指すのだという。誰もいない歩道でキャッチボールをすることで私人逮捕をされてはたまったものではないだろう。

「警察官職務執行法」の第二条(質問)には「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる」とある。

 しかし、この職務質問という行為が犯罪者逮捕への端緒となるケースがある一方で、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して」といった部分が、警察官の裁量に任されていると批判を受けることもしばしばだ。

『こち亀』の50巻に収められている「クイズDEお金持ちの巻」では、両津が、同僚の東京大学卒の法条正義と共に、テレビのクイズ大会に出場するというエピソードがある。職務質問についてのシーンを紹介する。

クイズの司会者「警察の問題ですよ!おまわりさんの本職の!!」

両津「やった!それならわかるぞ!」

観客「おーおすごい!」「なんて運がいいんだ!」「パチパチパチ」「ワーワーワー」

秋本麗子(両津の同僚で観客席にいる)「すごい!ついてますわ両ちゃんたち!」

大原大次郎(両津の上司で観客席にいる)「まったくだ!優勝すれば警察のイメージアップになるからな。うむ!」

司会「ディレクターの山ちゃん、今回100万円と車、もっていかれそうだよ!」「運には勝てないね!」「問題です。警察官職務執行法第二条、職務質問はどういう場合にできるでしょう?」

両津「はい!本官の気分が乗った時です!!」

ブーーー

司会者「不正解!!」

「警察官職務執行法」の第二条(質問)には「警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる」とある。

 しかし、この職務質問という行為が犯罪者逮捕への端緒となるケースがある一方で、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して」といった部分が、警察官の裁量に任されていると批判を受けることもしばしばだ。

『こち亀』の50巻に収められている「クイズDEお金持ちの巻」では、両津が、同僚の東京大学卒の法条正義と共に、テレビのクイズ大会に出場するというエピソードがある。職務質問についてのシーンを紹介する。

クイズの司会者「警察の問題ですよ!おまわりさんの本職の!!」

両津「やった!それならわかるぞ!」

観客「おーおすごい!」「なんて運がいいんだ!」「パチパチパチ」「ワーワーワー」

秋本麗子(両津の同僚で観客席にいる)「すごい!ついてますわ両ちゃんたち!」

大原大次郎(両津の上司で観客席にいる)「まったくだ!優勝すれば警察のイメージアップになるからな。うむ!」

司会「ディレクターの山ちゃん、今回100万円と車、もっていかれそうだよ!」「運には勝てないね!」「問題です。警察官職務執行法第二条、職務質問はどういう場合にできるでしょう?」

両津「はい!本官の気分が乗った時です!!」

ブーーー

司会者「不正解!!」

『こち亀』両さんの爆笑知識が教えてくれる!?「私人逮捕系YouTuber」の大問題

小倉健一:イトモス研究所所長

ライフ・社会ニュース3面鏡

2023.12.12 11:00

私人逮捕系YouTuberの問題は軽犯罪法や職質にまで飛び火する?

 他にも、『こち亀』の作者である秋本治氏はこの職務質問の話がお気に入りなのか、違うエピソードでも登場させている。単行本19巻の『両津大明神!?の巻』である。

 両津が仕事をせずに、どんな選択をしても不幸な未来が来ることを告げられる占いをつくっていたところ、上司の大原にそれをとがめられる。「勉強しろ」と説教を食らい、「勉強してます」と答える両津。それではと警察官の職務に関する質問を出されるシーンだ。

大原「通行中の車を止める警察官の行為にはどういう法的根拠がある?しってるだけいってみろ!」

両津「そ…それは…警職法道交法などの法律で警察官の気分で車を止める場合につき規定されています。つまり憲法の言う国民の文化的生活が守られるようまた刑法の犯罪予防という…」

大原「職務質問の法的根拠を200字以内で述べよ!さあいってみろ」

両津「そ…それは昭和31年改正法つまり…その司法職員の職務質問に関する法律により職質の3原則が定められていて…気に入らないやつ、素直でないやつ…」

大原「どうもデタラメな知識ばかりだ…」

 両津の適当発言(本人は真剣だが)によるギャグのオチがさえわたるが、両津が言うようにその時の気分で警察官が何でもできるなんてことが実際に許されていたら笑えない。「私人」であれば、なおさらだ。

 私人逮捕系YouTuberの問題は、軽犯罪法や職務質問にまで広がる大きな課題といえるだろう。

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