坂本龍一

「もっと孤独に」…… 大貫妙子が坂本龍一に語ったこと

2023/04/14 17:40

 3月28日、音楽家・坂本龍一さんが永眠した。享年71。がんを公表しながら最期まで音楽をつくり続けていた。

坂本龍一さん© AERA dot. 提供

 1952年東京生まれの坂本さんは78年「千のナイフ」でデビュー。細野晴臣さん、高橋幸宏さんとYMOでも活動。83年に映画「戦場のメリークリスマス」のテーマ曲がヒット、87年の映画「ラストエンペラー」の音楽では米アカデミー賞とグラミー賞を受賞した。

 平和や地球環境の保全への思いは強く、亡くなる直前には明治神宮外苑地区再開発の見直しを求める手紙を小池百合子都知事らに送っている。

 坂本さんを初めてインタビューさせていただいたのは2001年。モザンビークの地雷を除去するチャリティー「ZERO LANDMINE」後で、アントニオ・カルロス・ジョビンの曲を録音した「CASA」発表前。

 ジョビンの家でジョビンのピアノを弾いた坂本さんは、ジョビンの魂が降りてきたと話された。故人が好んだ音階の鍵盤に指の脂が残り、タッチも微かにやわらかい。長時間弾くとそこに導かれ、坂本さんの演奏にジョビンが混ざるのだという。

 坂本さんの話は常に具体的。オープンで率直で気取らず、大家然とした雰囲気はまったく感じない。取材したラウンジにあったピアノで「戦場のメリークリスマス」を演奏してくれたこともある。

 音楽を担当した市川海老蔵さん(当時)主演の時代劇映画「一命」は以前「切腹」というタイトルで映画化され、武満徹さんが“ザ・時代劇”的な音楽を手掛けた。一方、坂本さんは武満さんをリスペクトしつつ、ピアノ、オーケストラ、クラシックギターで音楽をつくった。

 坂本さんは10代の頃、武満さんのコンサート会場で「武満の音楽は日本回帰だ!」というビラを撒いた体験を話してくれた。ビラを撒いたのは君かな、と終演後武満さんが目の前に現れた。デビュー後に再会。ビラのときの君だね、と言われ交流が生まれたそうだ。

 坂本さんはいつも取材者がほしがる話を察して、提供してくれる。この話は見出しになる? ページ分話は足りてる?と、よく確認された。

 大貫妙子さんとコラボレーションしたアルバム「UTAU」のレコーディングも取材した。札幌の芸森スタジオだった。二人は20代からの盟友。大貫さんは心のこもった追悼のコメントもつづっている。「UTAU」は二人の既存の作品などから大貫さんが選曲。坂本さんのピアノとともに水彩画のような声で歌っている。

「もっと孤独に」

「宇宙空間にぽーんと放り出された気持ちで」

 大貫さんのリクエストが、坂本さんは新鮮だったという。自分が書いた曲でも新しい風景を見ることができたそうだ。

「美貌の青空」「風の道」などをレコーディングしたが、坂本さんのピアノは伴奏というよりも、歌。スタジオに二人の歌い手がいるように感じた。

 坂本さんの生演奏はもう体験できない。新曲も聴けない。リスナーとしてとてつもなくつらい。

(音楽ライター・神舘和典)

※週刊朝日  2023年4月21日号の記事より抜粋

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