行き先はクジまかせ。非日常感がウケてます、「ランダム旅」。
コロナ禍で利用が落ち込んだ旅行需要の回復につなげようと、鉄道や航空など、大盤振る舞いともいえるユニークな旅のスタイルが話題となっています。
それは、運まかせで行き先が決まる「ランダム旅」と呼ばれる、一種の“ミステリーツアー”です。
LCC(格安航空会社)大手のピーチ・アビエーションが2021年から発売して大ヒットとなったのが「旅くじ」。1回5000円(税込)の“ガチャ(カプセル型自販機)”を引くと、中には、行き先と、そこまでの往復航空券購入に使える6000円分のピーチポイント交換用のコード、オリジナル缶バッジなどが入っています。行き先は13カ所の中から指定され、チケットは有効期限内に各人で予約します。
大阪でスタートしたこのサービスですが、出だしはいまひとつでした。しかし、SNSが火付け役となって徐々に話題となり、10~20代前半のZ世代を中心に拡散。旅くじを引く様子の動画再生回数が1800万回を超え(2022年10月時点)、多くのメディアも取り上げた結果、2万7000個余りを売り上げる異例のヒットとなりました。同社ではまた、2022年夏から「開運旅くじ」を宝くじ売り場で発売。シニア層の取り込みを図るための企画で、おみくじのように木筒からくじを引くと(1回5000円)、6000円か1万円分のポイントが得られ、航空券と交換できるというもの。
[JR西日本]は昨年7月、専用アプリ内でサイコロを振り、出た目で行き先が決まる「サイコロきっぷ」を3カ月の期間限定で発売。行き先は、北陸から九州までの在来線や新幹線の7つの駅から指定。サイコロひと振り5000円で、往復運賃が通常の5~8割引で手に入るとあって、発売2週間ほどで延べ約10万人分の購入がありました。
[JR東日本]が昨年12月から始めたのが、「どこかにビューン!」。利用者が買い物や定期購入などでたまった“JRE POINT”6000ポイント(6000円相当)を使って往復旅行ができるという商品です。予約サイトで出発希望日と出発地を入力すると、47の新幹線駅からランダムに選ばれた4つの行き先候補駅が表示。そのうちの1つの駅に発着する往復チケットが手に入るというサービス。割引率が4~8割超とかなりお得。
“くじ”的要素で行き先が決まる運まかせの旅。自分がどこへ行くのかわからないワクワク感と、予想外の展開が味わえるスリル感。そして、大幅割引きのお得感。自分で決めるのは難しいけど、指定されたら行こうかなといった価値観を持つZ世代の心理をうまく捉えました。ランダム旅に出会えなかったら、この場所へは来なかった——-これまで、制度面でも割引面でも、やや“お堅い”イメージの交通業界に、遊びごころある新しい風が吹くことは、利用者として大いに歓迎したいところ。
※参考:
ピーチ・アビエーション https://www.flypeach.com/
JR西日本 https://www.westjr.co.jp/
JR東日本 https://www.jreast.co.jp/
日経МJ(2022年9月16日付/同9月19日付)